宮崎地方裁判所 昭和30年(ヨ)39号 決定 1955年6月22日
申請人 国 外五名
訴訟代理人 江口小市 外一名
被申請人 井崎兵吉
主文
申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯市、谷口奈良一において金四万円の保証を立てさせ被申請人の別紙表示の土地に対する占有を解き申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯市、谷口奈良一の委任する宮崎地方裁判所執行吏をしてこれが保管を命ずる。
被申請人は右土地に立入つてはならない、執行吏は右事実公示の方法を執り土地の荒廃を防ぐため適当の措置を執り殊に耕作の目的を以てする限りは申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯市、谷口奈良一をしてこれに立入らしめることができる。
申請人国の本件仮処分申請はこれを却下する。
理由
第一、申請人の主張
申請人等は「被申請人の別紙土地に対する占有を解き申請人等の委任する宮崎地方裁判所執行吏をしてこれが保管を命ずる。
被申請人は右土地に立入つてはならない。執行吏は右土地につき申請人国を除くその他の申請人をしてこれに立入り耕作させることができる」との裁判を求め、その理由として
一、別紙表示の土地は近隣の土地一帯と共に旧軍用地であり大平洋戦争中宮崎海軍飛行場として使用されていたが終戦と同時に大蔵省に移管され更にその後昭和二十三年七月二日所管換により農林大臣が管理するに至つた国有地である。
二、右土地一帯は農地改革事業の一環として同年八月二日宮崎県知事の認可の下に開拓建設工事並びに開田工事等が国費を以て施行され右工事は既に完了し本件土地を除く土地はすべて農業に精進する見込のある者にそれぞれ売渡済である。
三、申請人国は昭和二十七年四月一日自作農創設特別措置法第四十一条の規定により本件土地を適格者である申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯一、谷口奈良一に売渡す計画の下に同法第四十一条の二の規定により本件土地を同人等に使用させることとした。
四、被申請人は何等正当な権限を有しないのに拘らず本件土地を不法占有し、申請人国の本件土地所有権及び申請人国を除くその他の申請人の本件土地使用権を侵害している。
五、よつて申請人国は所有権に基いてその他の申請人は右土地使用権に基き国の所有権に代位して被申請人に対し本件土地の明渡を求めるため本案訴訟を提起せんと準備中であるが、被申請人は現在本年度稲作植付の時期を目前にして更に右不法占有を継続する意図の下に着々その準備中であるがかくては早急の実現を要すべき農地改革の一環として施行せしめた前記開拓事業の目的を達することができず又申請人国を除くその他の申請人等は何れも貧農にして本件土地に対する本年度の稲作耕作をなさない限りその生活さえも維持出来ない程急迫しており従つて被申請人の本件土地に対する不法占有をこれ以上継続させ本案判決を待つていては申請人等に償うことのできない著しい損害を蒙る恐れがあるのでこれを避けるため本申請に及んだ次第である。
と述べた。
第二、当裁判所の判断
一、被保全権利について
本件土地は旧宮崎海軍飛行場地区として申請人国の所有であつたが自作農創設特別措置法施行規則第三十一条の規定により昭和二十三年七月二日農林省所管開拓財産として維持管理中昭和二十七年四月一日自作農創設特別措置法第四十一条の規定により申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯市、谷口奈良一に売渡す計画の下に同法第四十一条の二の規定により同人等に一時使用させることとなりその旨の決定がなされたことが一応疎明により認められる。しからば申請人等は本件土地についていずれも所有権或は正当な使用権があるものというべきである。
二、申請人国の本件仮処分の必要性について
申請人国は本件仮処分を得なければ早急に実現を要すべき農地改革の一環として施行せしめた開拓事業の目的を達することができず本案判決を待つていては償うことのできない著しい損害を蒙る恐れがある旨主張するがこの点については何ら疎明がないのみならずたとえ被申請人が本件土地を不法占有しているとしても、申請人国としては農地改革事業自体を進捗せしめるについて何ら支障はないものというべきであるから申請人国については本件仮処分の必要性はないものというべきである。
三、申請人椎谷儀作、横山寅平、田代捨市、日高卯市、谷口奈良一の本件仮処分の必要性について
申請人等は何れも貧農にして本件土地に対する本年度の稲作耕作を為さない限りその生活さえも維持できない程急迫しており本案判決を待つていては償うことのできない著しい損害を蒙る恐れがある旨主張する。申請人等審訊の結果によれば一応右事情を認めることができるので申請人等については本件仮処分の必要があるものというべきである。
四、よつて申請人国の本件仮処分申請はこれを却下しその余の申請人の本件仮処分申請を認容し主文の通り決定する。
(裁判官 塩田駿一)